水生植物について
難しくならない程度に、水生植物についての説明をしておきましょう。
まずは水辺の植物群落の分類です。緩やかな沖積地形の自然度の高い沿岸帯では、陸から沖に向かって「水辺林」→「湿生植物」→「抽水植物」→「浮葉植物」→「沈水植物」という配列になっていることが多いと言えます。
その内容を簡単に書き出すと以下のようになります。
水辺林:ヤナギ類、ハンノキ、ウメモドキなど
*池の畔や川岸で、ヤナギ類をよく見かけることと思います。樹液が出ていると、クワガタやカナブン、ハナムグリなどが集まっていることもあります。
湿生植物:アゼスゲ,ヌマガヤツリ,キショウブなど
*カヤツリグサの類(アゼスゲも含まれる)には、湿った地面に生えるものがいつかあります。
抽水植物:ヨシ,マコモ,ガマ,ハス,コウホネなど
*このあたりからカバーゲームのファクターになる植物ですね。
浮葉植物:ヒシ,アサザ,ガガブタ,スイレン,ジュンサイなど
*読んで字のごとく、葉が水面に浮いている植物です。
沈水植物:エビモ,マツモ,カナダモなど
*水中にウィードベッドを作る植物です。
水生植物の役割はたくさんあります。抽水植物の項で触れる浄化作用の他、魚類やエビなどの甲殻類、水生昆虫などの産卵 床や保護床にもなっているし、フィッシュ・イーターである魚類や鳥類の食料供給所でもあります。また、バンやカイツブ リなどの浮き巣の材料でもあるし、ヨシなどの抽水植物群落はオオヨシキリやヨシゴイの営巣場所にもなるなど、水辺で生活するあらゆる生き物たちにとって、かけがえのない場所を提供しています。
では、湿生植物から順に少し説明しておきましょう。
湿生植物
一般的な定義:普通は湿地など、水分が多い場所に生える。必ずしも根が水中にあるとはかぎらないが、種類、条件によっては浅水域にも生育する
岸際からブッシュを形成するイネ科の一年草。形態が似通っている場合が多いので、新家的には昔から「イネ科ソフトブッ シュ」という表現をとっています。アシカキは茎の節部分に白い毛がリング状に生えていること。キシュウスズメノヒエの花序は「V」であることなどの特徴があります。
詳しくは専門書を参照してください。(新家所有の図鑑:『日本水草図鑑』 角野康郎著/文一総合出版…\15,000ほどします)
カヤツリグサ科の多くは多年草で、上記の種のように湿地に生えるものもあります。カヤツリグサ自体、種類が多く、帰化植物も増えているので、同定は大変でしょう。この科の一番の特徴は茎の断面が「三角形」をしていることです。
3.キショウブなど
キショウブはヨーロッパ原産の多年草です。明治時代に観賞用として移入され、逸出して各地で野生化しています。鮮やかな黄色の花をつけるので、花期には遠くからでもわかります。
抽水植物
一般的な定義:普通は根や茎の一部が水中にあり、葉や茎を水面より上に伸ばします。種類、条件によっては、水分の多い陸地に生えることもあります。
*特に抽水植物の群落では、水中茎の表面で繁殖している多くの藻類や細菌類が、水の浄化作用に貢献しています。貢献のひとつは有機性汚濁物の分解であり、もうひとつはアオコなどの植物性プランクトンの異常発生の原因となる、リンやチッソを含む栄養塩類の吸収除去です。
また、抽水植物の根は先端部まで通気組織が発達しており、水上の茎や葉から運ばれた酸素が根周りにも供給され、水底の土中の有機物分解を促進します。ヨシなどの抽水植物がしっかり根をはることは、岸辺の強化にもつながっています。
アシという表現のほうが一般的ですが、属名としては「ヨシ」が採用されているので、ここではヨシにしておきます。ただ、図鑑などでも「ヨシ(アシ)」という表記が見受けらるので、どちらでもいいのかな、という感じです。私自身は「アシ」という名称を使うことが多いです。イネ科の多年草で、高いものでは4mほどにもなります。一般的には1~3mぐらいでしょう。40cmにも達する小穂の密生した花をつけます。
これもイネ科の多年草で、高さは1~2m、時には3mにもなります。ヨシよりも沖合いまで生育する傾向があります。花序は40~60cmもありますが、まばらに分枝しています。花は単性花で上部に雌花の小穂、下部に雄花の小穂がつきます。
ガマ科の多年草です。地下茎は泥や水中を横走し、群落を形成します。高さは1~2mに成長し6~8月に花をつけます。この花はウィンナー・ソーセージのような部分が雌花群、その上の穂が雄花群です。コガマやヒメガマなどがあります。
ハス科の多年草。古くに中国から渡来した、仏教文化に関連深い植物です。夏には刺状突起のある長い柄を水面に出し、葉を広げます。花は長く直立した花茎の先端に咲きます。紅、淡紅、白、黄など様々な色があります。
ちなみに芥川龍之介の『蜘蛛の糸』では、極楽のハスの花の色は白になっています。
泥中の地下茎は品種によっては著しく肥大し、レンコンと呼ばれ食用にされます。
スイレン科の多年草です。地下茎が太くて白く、人骨のように見えるため「河骨」という漢字名がつけられたようです。水面に出た葉はサトイモの葉に似た矢じり形をしており、20~30cmにもなります。しかし、水中葉は細く半透明の膜質です。 鼻は黄色で花期は6~9月。同属にヒメコウホネやネムロコウホネがあります。
抽水性の多年草です。泥や水中に枝を分岐しながら広がり、10~30cmの水上茎を直立させて水面を覆います。日本には雌株のみ帰化し、もっぱら株の分枝によって増えています。
浮葉植物
一般的な定義:水中から生え、葉だけを水面に浮かべます。このような葉を「浮葉」と呼びます。
葉および種子の形状から、その名がついたようです。種子の子葉は食用にされることもあります。これは 日本にかぎったことではないようです。英名がWATER CHESTNUTというぐらいですから…。
オニビシやコオニビシ、ヒメ ビシやトウビシなどがあります。それぞれの果実のトゲは、基本的に以下の通りです。
ヒシは2刺、オニビシは4刺、ヒメビシは4刺、トウビシは2刺。しかし私の見たトウビシの果実は、大形で刺というほどの突起はないものでした。
世界のヒシ属 を約3種にまとめる見解から、30種あまりを認める立場まで存在し、分類群の取り扱いが混乱している模様です。
ヒメビシは各地で消滅が相次ぎ、希少な種類になってしまいました。私もヒメビシは2箇所でしか目撃したことがありません。ヒシによく似たものにヒシモドキがあります。
池などに生えるミツガシワ科の多年草。葉の表はやや光沢のある緑色で、裏は紫色。5~8月に鮮やかな黄色の花をつけます。葉の表面に紫色の斑紋が現れ、花が白色のヒメシロアサザは各地で絶滅が危惧されています。あるところには雑草のごとくあるんだけど…。
ミツガシワ科の多年草。7~20cmのやや円いハート形の葉と白毛が目立つ花が特徴的です。葉の裏は紫系です。
スイレン科の多年草。日本のものはヒツジグサと呼ばれ、未の刻すなわち午後2時前に開花します。近年、花や葉が派手な園芸品種が全国的に繁殖しています。しかし、私は鮮やかな品種より、日本のヒツジグサが好きです。
山間部の小さな野池に、木漏れ日の中、静かに咲いている白い花が好きです。その静謐を味わうためだけに出かけることもあります。
スイレン科の一年草。若い葉は鉾形で、成長につれスイレンのような形になります。さらに成長して円形になる頃から、表面にシワが入り、葉脈上に突起が現れます。葉の裏は紫色で、こちらも葉脈上に突起があります。
花期は7~9月で、巨大な 葉の割に小さな鮮やかな紫色の花をつけます。これは開放花と呼ばれ、それとは別に水中で自家受粉して結実する閉鎖花もあります。
結実した種子も突起だらけ。とにかく触れば痛い、棘だらけの植物です。場所によっては絶滅も危惧されています。
スイレン科の多年草。楕円形の浮葉の裏面は、紫色がかることが多いです。若い茎や葉はカンテン状の粘質物に包まれており、食用にもされています。秋田県などでは養殖されており、たらい舟などで収穫する光景を見ることができます。
トチカガミ科の多年草。長い水中茎を横に這わせ、節から根を出して群生します。名称は「トチ(スッポンの地方名)が鏡に使う」といういわれに由来します。8~10月に3枚花弁の白い花をつけます。
ヒルムシロ科の多年草。線形の水中葉と狭長楕円形の浮葉が特徴です。5~10月にツクシに似た形状の花をつけます。名称は「ヒルの休憩場所」といういわれに由来します。他にフトヒルムシロやオヒルムシロなどがあります。
ウキクサ科としては、ウキクサやアオウキクサが最も一般的でしょう。他にもイボウキクサやミジンコウキクサなど、いろいろあります。
アアウキクサ科にはアカウキクサやオオアカウキクサがあり、冬期には赤色を帯びます。サンショモ科のサンショウモも浮遊する植物ですが、これは水生シダの仲間です。ボタンウキクサのような外来種も繁殖しています。
ミズアオイ科の多年生植物。原産地は南米で、明治時代(江戸時代?)に移入されたようです。温暖な気候と豊富な栄養塩類に恵まれると、旺盛に繁殖します。
世界各地で問題のある植物として扱われています。浅い場所では、土中に根をおろすこともあります。
沈水植物
一般的な定義:根、茎、葉の全体が水中にあり、ウィードベッドを形成します。多くの場合、花だけを水面に出します。
ヒルムシロ科の多年草。池や流水中など、多様な条件下に生えます。地下茎は地中を這い、1節おきに水中茎を出します。夏期の葉は冬期のものより幅が広い線形で、縁に鋸歯があり、波打った形状をしています。
見た目が似たものにオオササエビモやヤナギモなどがあります。
マツモ科の多年草。根はなく水面下に浮遊しているのが普通ですが、茎の基部が「仮根」の役割を果たして、地についていることもあります。花粉が水中を漂って雌花にたどりつく「水中媒」という受粉方式の植物です。
古くから「金魚藻」と呼ばれています。
池沼、河川に群生する多年草。オオカナダモは名前のわりに南米原産。日本には雄株が帰化し、切れ藻による栄養繁殖で分布を広げてきました。コカナダモは北米原産。これも日本には雄株のみの帰化しています。
これらは外見的差異はおおいにあるものの、トチカガミ科に含まれています。オオカナダモとコカナダモ、クロモは外見的にはかなり似ていますが、葉長や葉数で判別できます。
フィールドでは他にも様々な水生植物を見ることができます。
オランダガラシ(クレソン)やミクリの仲間、ミツガシワやオモダカ。マツバイやホタルイ、カンガレイやフトイなどのカヤツリグサ科の俗称イグサの仲間。ノタヌキモやイヌタヌキモなどタヌキモ科の植物。
3枚の花弁を広げるミズオオバコなど、数え上げればキリがありません。詳細を知りたい方は、専門書を手にフィールドへ出かけるのがよいでしょう。水生植物だけでなく、陸生植物も眺めていくと、無限の広がりがあります。
釣りに夢中になるあまり、対象魚のことで頭が一杯になっていると、自然という大きなサークルを見失いがちです。
「何が自然だ!?俺は1匹でも多く、1cmでも大きいのを釣りたいんだ!!」
という人は勝手にどうぞ。
技術や知識は身に つくかもしれませんが、おそらく感性はもっと失われていくことでしょう。
昔『ライギョ大全』なる本に書いたことがありますが、水生植物で水質がある程度わかる、という話をご存知ですか?
ジュンサイやヒツジグサは酸性で、アルカリ度やカルシウム濃度が低い水域に生える傾向があるそうです。またトチカガミはアルカリ度やカルシウム濃度、マグネシウム濃度が高い水域に生える傾向があるそうです。